二次元電気泳動で分離したタンパク質の「質量分析」のこつ
横浜市立大学木原生物学研究所 川崎 博史

 ゲノムプロジェクトの進展に伴い、多くの生物種でそのゲノムにコードされているほとんどのタンパク質のアミノ酸配列が明らかになってきている。このアミノ酸配列データベースを利用することによって、タンパク質の特異的切断によって得られたいくつかのペプチドの質量からタンパク質を同定できる。ここでは、二次元電気泳動で分離したタンパク質のゲル内酵素消化法とそれによって得られたペプチドのMALDI-TOF質量分析装置による分析、およびデータベース検索によるタンパク質の同定までの過程の注意すべき点について述べる。ゲル内酵素消化法では、アクリルアミドゲルの中にプロテアーゼが拡散しゲル内のタンパク質を消化する。生成したペプチド断片は拡散によってゲルの外側にでる。これを分析するわけであるから、できる限り少ない液量で酵素消化を行うべきである。
 MALDIターゲットにのせる試料の量は 1μlもあれば十分である。酵素消化液が塩を含んでいるとうまくペプチドをイオン化できないので、揮発性の緩衝液を酵素消化に用いるべきである。そうでない場合には、ZipTipなどで前処理して、MALDIターゲットにのせる必要がある。得られたマススペクトルから、データベースを検索してタンパク質を同定する際には、測定精度とデータベースの選択が重要である。この方法によるタンパク質の同定の限界についても議論する