高分子量タンパク質および疎水性タンパク質の二次元電気泳動のポイント
北里大学理学部 大石 正道
(1) 高分子量タンパク質解析のポイント
O'Farrell (1980) による二次元電気泳動法では、分子量 150,000 以上の高分子量タンパク質を解析するのは困難であった。一方、固定化 pH 勾配ゲルを用いた IPG 法の場合、Gorg ら (1999) は、IPG ストリップ膨潤時にサンプルを添加する場合、低電流を通電しながら膨潤すると高分子量タンパク質が分析できると報告している。しかし、IPG 法では、クーマジー染色が可能なほど大量に、高分子量タンパク質を解析することは困難である。
Hirabayashi (1981) は、等電点電気泳動法の担体にアガロースゲルを用いることで、ミオシン重鎖 (分子量 200,000) を初めとする高分子量タンパク質の解析に成功した。さらに、Oh-Ishi & Hirabayashi (1988) は、担体のアガロースゲルと抽出液の両方に尿素とチオ尿素を加えることで、高分子量タンパク質の入りをよくすることに成功した。たとえば骨格筋の場合、5 M 尿素, 1.5 M チオ尿素存在下で泳動を行うと、特にミオシン重鎖、C-タンパク質、a-アクチニンなどの分子量 100,000 以上の高分子量タンパク質の量が3〜5倍に増加した。
以上のことから、高分子量タンパク質の解析のためには、(1) 等電点電気泳動の担体をポリアクリルアミドゲルからアガロースゲルに変えること、および (2) 尿素の他にチオ尿素を混合して使用することが妥当だと思われる。
(2) 疎水性タンパク質解析のポイント
疎水性タンパク質を二次元電気泳動法で解析することはきわめて困難であるが、Rabilloud ら (1997) の総説にもあるように、さまざまな試みが行われている。我々の研究室では、数種類の非イオン性界面活性剤を用いることで、ある程度二次元パターンを改善することに成功した。
Nonidet P-40, Triton X-100 または CHAPS をそれぞれ単独またはそれぞれの組み合わせで、等電点電気泳動用アガロースゲルのみに、またはアガロースゲルと抽出液の両方に混合し、二次元パターンの変化を調べた。実験材料には、ラット肝臓を用いた。抽出液中のみに 3% CHAPS, 1% Triton X-100 を混合した場合に、アルカリ端におけるタンパク質の詰まりがほとんどなくなり、もっとも良い二次元パターンが得られた。また、ホモジェナイズした試料を Beckman TLA55 Rotor で 50,000 rpm, 20 min. 超遠心を行いその上清を用いると、アルカリ端の詰まりがなくなった。
ところが、一次元目のアガロースゲルから二次元目ゲルへの移行時に、分離ゲルのトップに詰まりが生じるようになった。そこで、二次元目の分離ゲルを固めた後、その上層に 3% CHAPS を一晩のせておくと、分離ゲルのトップの詰まりが減少した。
以上のことから、疎水性タンパク質を扱う際には、(1) 3% CHAPS, 1% Triton X-100 を抽出液中に入れること、(2) 超遠心を利用すること、および (3) 二次元目の分離ゲル上に 3% CHAPS をのせて一晩放置しておくことがよいと考えられた。